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福岡高等裁判所 昭和32年(ラ)96号 決定

抗告人 高木光士

主文

本件抗告を棄却する。

抗告の費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は抗告人は、妻高木信子を相手取り原裁判所に対し夫婦同居の仮処分を申請したところ、原審は、かりに夫婦間に同居を命ずる判決がなされたにしても事の性質上、同居を命ぜられた相手方の任意の履行以上の実現をみることはないから、帰する所本件仮処分の申請は、その必要性及び被保全権利のふたつともに疏明が足りないことになるのでこれを却下するという決定をなした。よつて抗告人は、ここに疏明を補充強化して、原決定を取り消し、高木信子に対し同居を命ずる旨の仮処分を求めるというのであるが、夫婦の同居を求める事項は、家事審判法の施行後は家庭裁判所の権限に属し、地方裁判所の管轄に属しないことは、家事審判法第九条第一項乙類第一号及び家事審判法施行法第六条第八条等の規定の解釈上容疑の余地がない。したがつて、福岡地方裁判所に対してなした抗告人の本件仮処分申請は(これを管轄家庭裁判所に移送する途もないので)ついに不適法として排斥するの外はない。原審が右申請を却下する理由として夫婦間における同居義務の履行は債務者が任意に履行しなければ債権の目的を達し得ないことが明らかで、かかる任意の履行を期待するにすぎない仮処分の申請は、その被保全権利及び必要性を欠くと説明しているのは不当であるけれども(原審説示の通りだとすれば昭和二二年法律第一五三号による改正前の人事訴訟手続法が同居の訴を規定すると共にその仮処分に付、民事訴訟法第七五六条ないし第七六三条を準用していたのが殆んど意味をなさないことになる。)、仮処分申請を却下した終局の帰結は相当であるから、結局抗告を理由なしと認めて主文の通り判決する。

(裁判長判事 鹿島重夫 判事 二階信一 判事 秦亘)

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